44話
- _ ぬぺ
- 2023年2月1日
- 読了時間: 8分
鹿の死するや音を択ばず いつもは優雅な声で鳴く鹿も、死ぬ時は悲鳴をあげ、美しい声が出せない。転じて、人が窮地におちいると節度を失った言動をすることのたとえ。
【あらすじ】
佐野の父親が亡くなったという報せが入った。
久しぶりに実家に戻った彼の運命がゆっくりと動き出す。
しかし、忘るるなかれ。
このゲームにおいて、幸せになることは死が近づくことを意味する。
【神崎優衣】
ミラーワールド内で兄のもとに合流。
兄の制止も聞かず、一緒にいると宣言するものの気を失い、結局(おそらく士郎の手によって)元の世界に呆気なく帰還。
ミラーワールドで起きたことは一切覚えていない。
真司と蓮は相談の末、優衣の身に起こったことは彼女に伝えないこととなりました。
この辺の謎は次回明かされそうな気配がするので、それを信じたいと思います。
【東條悟】
佐野の家に居候中の大学生。
北岡・浅倉がトラウマになったか、佐野の家の窓ガラスは全て閉め、テレビは布団で覆い、鏡は殴って割る。正直ここまでとは思わなかったが、いやそれよりなにより人の家よ、人の家。
彼が英雄になりたいと思った理由は、「そうすれば、みんなが好きになってくれるかもしれない」から。
根本的に他人の気持ちが分かっていないから好かれなくて、他人の気持ちが分かっていないから「人を殺してでも英雄になる」なんて発想になる。
というか彼は他に「英雄」って見たこと無いの? 物語とかゲームとか……やってなさそうなだなぁ……。
その後。お弁当を持って帰って来てくれた佐野と少し話す。
●「なあ、ちょっと聞きたいんだけど……オタク俺の事どう思ってるわけ?」
●「……感謝してる。香川先生以外で、こんなに優しくしてくれたの、君が初めてだし。」
●「友達だよな、俺たち」
無言で頷く東條。
多分その姿は、佐野には見えていない。
【佐野満】
父親が亡くなった報せを受け、向かった場所は高層ビルの一室。
なんと彼、大きな企業の御曹司でした。
彼の父親は一代で事業を成功させた実力者。
佐野はそんな父に勘当されていたものの、その「勘当」は実はいわゆる社会勉強。1人で生きてもらい、彼の成長を待っていたという。
その結果がお金大好き兄ちゃんになっていますが大丈夫なんでしょうか。
そんな父親の遺言は、満を後継ぎとしてここから会社を盛り上げていくこと。
反対勢力もいるみたいですが、そこは金の力でなんとかなると。嫌な大人。そもそもあの重役さんたちも本当に満のことを思っているのか…。「しばらくは自分たちがサポートする」という旨の発言に、摂関政治が頭をよぎる。
何はともあれ、社長になった。
すなわち、彼はもう戦う理由が無くなってしまったのである。
翌日。
パリッとしたスーツを着こなした佐野は、重役のお迎えのもと出勤。
汚れた車は、その場にいた男に万札を握らせて洗ってもらう。完全に金持ち人生謳歌モードに入りました。
汚い大人を見て育った金持ちは汚い大人になるわね。
そこに現れたのは士郎。
佐野はカードデッキの返却を申し出るが、もちろん士郎の答えはノー。そりゃそうだ、士郎的には自分の目的もかかったゲームなんだから。ということで、手持ちモンスターをちらつかせて、「デッキ捨てるなら対抗手段無くなるけど大丈夫そ?」と脅し。
このゲームマスターやりたい放題である。
流石にいい方向に流れ始めたのに命を失うわけにはいかない佐野。
自分の周りに声をかけ、ボディーガードとして雇ってもらえないかと聞いて回る。当然ながらスーツケースの中には大金。いい趣味してるね。
まずは花鶏へ。
蓮はしっかりめに札束をガン見していましたが、良くも悪くも金に無頓着な真司くんの怒りが全てを上回ったため追い返される。
続いて北岡弁護士事務所へ。
金を目の前にしてへーこらし始めた北岡さん。
●「あの金は前金として受け取っておきますが、いろいろ細かい問題もありますし、こちらで契約書を作りますので……(咳払い)正式な雇用はそれからということで、いかがでしょう」
流石は弁護士さん、その辺の諸々には詳しかった。頼りになるぜ。
●「いいんですか先生、ほんとにあんな奴と組んで」
●「心配ないって、吾郎ちゃん。言ったでしょ?『まず契約書を作る』って。時間がかかるんだよねぇそういうのって。1年先か2年先か…」
●「先生!」
●「何よ?」
●「……素敵です」
流石は悪徳弁護士さん、その辺の諸々には手慣れたもんだ。やってくれるぜ。
というわけで体よく追い返された佐野。彼もそのことにはうっすら気づいているので、結局頼れるのは東條しかいないという結論に落ち着いた。
そんな中彼が出会ったのは百合絵という女性。
父親の知り合いの娘という彼女。父親は子供同士を結婚させるのもありなんじゃないか、という話までしていたとか。もちろん冗談半分、百合絵父は本人たちの意思が一番だという。
肝心の「本人たちの意思」はというと、満更ではないみたい。
美男美女でなかなか良いカップルである。
階段を下りてくるシーン、すれ違う別のカップルに比べてまだ物理的な距離が遠めなのがなんだか微笑ましくて良い。
幸せそうな2人の前に現れたのは、インペラーが使役するモンスター。
ろくに戦果をあげていないインペラー、そろそろ限界が来ていた。
同じ理由でミラーワールドに潜っていた龍騎を狙って戦闘開始。
同じく駆けつけ、戦いを見守る東條。
●「東條!頼む!こいつを!!東條!!」
まっすぐこちらに走って来た東條。加勢した後、攻撃を打ち込んだのは、インペラー。
●「ごめん。君は大事な人だから。君を倒せば、僕はもっと強くなれるかもしれない」
違う、違うよ……。
仲村を手にかけた結果、人手不足で香川研究室は困っていたし、
香川を手にかけたあと、タイガはずっと黒星続き。
寧ろ大事な人を手にかける度に、少しずつピンチに陥っている。それが分からないなら、客観的に自分を見れないなら、彼が勝つことは確実にない。
そしてそうやって自分の事を客観的に見ようともしないまま突っ走ってきたから、あなたを気にかけてくれる人がいなかったんだよ。
さて、致命傷を負った佐野はというと、真司の助けも借りて坂を転がり落ちて逃亡を図る。
しかし幸運は崩れるとそこからが早いもの。
彼を待っていたのはあろうことか王蛇。
手加減とか人情とかいう言葉とは一番遠いところにいる浅倉は容赦なくファイナルベントを打ち込み、佐野のデッキは崩壊。
そこに天気雨が降り出す。
変身解除した佐野は、息も絶え絶えに近くに捨ててあった鏡に駆け寄る。中に映るのは、彼が本来居るべき世界と、そこに映る百合絵。
●「百合絵さん、百合絵さん!出してくれ…出してくれ!!」
もちろんその声が彼女に届くはずもなく。
物理的に鏡の中に飛び込もうとするが、鏡は割れてしまう。
飛び散った欠片の一つを拾い、現実世界の百合絵が映る場所まで這い、走る。
割れた鏡の欠片越しに彼女を見つめる。
しかし彼の身体からは容赦なく砂のようなものが立ち上り始める。
●「出してくれ、出してくれよ! 俺は帰らなくちゃいけないんだ俺の世界に!」
「嫌だ、いやだ!出してくれ、出して!」
「なんでこうなるんだよ……俺は、俺は、幸せになりたかっただけなのに……」
佐野、退場。
遺されたのは、いつまでも彼の帰りを待ち続ける百合絵と、主のいなくなった部屋でした。
狐の嫁入りとは、「日が照っているのに、小雨の降ること」を指すほか、「夜、山野で狐火が連なっているのを、狐の嫁入りする行列の提灯と見ていったもの」を指す言葉。
即ち、存在しない結婚を指す言葉。
まさかの最期。
正直に言うと、「東條が香川退場によって狂う」「東條が佐野を手にかける」は予想済みだったのでまあそうなるやろなぁと思っていましたが。
ここまで「上げて落とす」シナリオだとは思わなかったし、ここまで救いのないラストだとは思いませんでした。
何よりもびっくりなのはコメント欄での指摘「佐野は4話しか出てない」です。嘘だぁ、絶対10話は出てたって。
この終盤も終盤になってから出てきたキャラがこんなに人間くさくて(相対的に)マトモで、だからこそこんな見ているのも苦しいような終わり方になるとは思ってもみませんでしたよ、ええ。
いろいろ思うことはありますが語彙力が圧倒的に追いついてない。精進します。
これだけの濃いキャラクター。
綺麗に仕上げてくれた脚本は勿論のこと、演じる日向さんの熱演がすさまじかったです。あの最期は4話しか出てないキャラのものじゃないわよ。
ハンディで荒ぶるカメラワークも大変良かったです。何度でも言うがシリアスと石田巨匠の親和性最高なんだよな~!
サブタイは「ガラスの幸福」。龍騎ってこんな綺麗なサブタイつけられたんですね…涙
【以下雑記】
🐉オレジャーナル。ミラーモンスターの画像を公開したところ、オフィスにはクレームの電話と定期購読解除の連絡が延々続いています。頑張れ、超頑張れ。
🐉クレーム電話に対してヘコヘコする編集長と、ぶちぎれてガチャ切りする令子さん。分かる~!
🐉なおその隣では、どこからかガラス製品をかき集めてきた島田さん・めぐみさんの愉快な女性陣が、モンスターの捕獲を企んでいました。元気だね……。
🐉花鶏。おばさん、何度も家からいなくなりバイトをサボる若者たちに遂にキレた。いつもと違ってちょっとファンシーな服装に身を包んでシャボン玉を飛ばし、「花鶏は二度と開けない」と宣言。寧ろ今までよく我慢したよおばさん。
🐉なんでもやります!と謝った真司・優衣に対して彼女が課した罰は、優衣にメイド服を着てもらい、3人には小さい子供たちの世話をしてもらうというもの。ここの客層もほんと謎である。
🐉冒頭の諺は『故事俗信ことわざ大辞典』から引用しています。正直、「鹿」がつくことわざや慣用句なんかで「三日天下」的なものがないかなー、って探したんですが、もっと残酷でピッタリなものがありました。怖いね。
🐉なお「狐の嫁入り」に関しては『日本国語大辞典 第二版』から引用してます。
次回:遂に核心に踏み込むか
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